現代ポートフォリオ理論を少しだけ具体的に解説します
投資の世界では,よく『現代ポートフォリオ理論』という名前を聞きます.
現代ポートフォリオ理論はもともと経済学理論です.Wikipedeaを見てもらえば,なんだか難しそうな説明が書いてあると思います.
一般の人が一から理解するのは難しいので,現代ポートフォリオ理論について抽象的に,簡単に説明しているネット記事はたくさんあります.
一方で,簡単すぎる説明をされると騙されていると感じたり,もっと知りたいと思ったりする人もいます.
そこで,ここでは「少しだけ具体的に」説明しようと思います.ほんの少しだけ専門性の高い説明をすることで,現代ポートフォリオ理論という言葉に対する信頼性を高めていただきたいと思います.
とはいえ,経済学に詳しくない人にもわかるよう,数式などは使わずにできるだけ分かりやすく説明するので,安心してください.

記事の最後では最適なポートフォリオを組む方法も紹介するので,ぜひ最後までご覧ください
※ちなみに,私は大学時代に現代ポートフォリオ理論に近い分野を研究していました.
投資でよくある勘違い
投資をしていると,「リスクとリターンは比例関係にあるので,大きなリターンを期待するならリスクも増える」という話を聞いたことがあるのではないでしょうか.
実は,「リターンが上がるとリスクが上がる」はおおよそ正解です.例えば,年1%と年20%のリターンを期待して投資するときは,20%のリターンを期待するときの方がリスクは高まります.
しかしながら,「リスクとリターンは比例関係」というのは厳密には不正解なのです.
なぜなら,ポートフォリオを適切に選ぶことでリターンを一定にしつつリスクを小さくすることはできるからです.
つまり,年5%と年7%のリターンを期待するとき,ポートフォリオの選び方によっては年5%のリターンを狙って投資をするときのリスクよりも年7%のリターンを狙って投資するときの方がリスクが小さいということはあり得るということです.
現代ポートフォリオ理論を理解することで,この「大きなリターンを得るには大きなリスクが伴う」というふわっとした表現を正しくとらえることができます.
現代ポートフォリオ理論
まず,現代ポートフォリオ理論の目的を明確にしましょう.
目的(望むこと)
投資をするときは,同じリターンを得るならリスクは小さい方が良いですよね.そこで,現代ポートフォリオ理論では次の目的を掲げます.
あるリターンを期待するとき,リスクを最小化するようなポートフォリオを決定する
ポートフォリオとは,『所持する金融商品の割合』です.例えば,米国株40%,日本株20%,債券10%,金20%,仮想通貨10%で構成されるポートフォリオなどが考えられます.
そして,現代ポートフォリオ理論ではある期待リターンに対して,リスクを最小化するようなポートフォリオを決定します.
例えば,期待リターンを年3%を望むとき,リスクを最小限に抑えつつ目標を達成するようなポートフォリオを探します.
ここで,「リスク」という言葉の定義をしておきましょう.
リスクとは
現代ポートフォリオ理論における『リスク』とは,数学的にはリターンの『分散』というものです(※).投資の世界ではボラティリティと呼ばれたりします.
分散は数学的な定義では「(平均値-各点の値)を各点について和を取り2乗たものを(データ数)で割ったもの」ですが,それは置いておいて,ここでは抽象的な概念のみをとらえます.
以下の図は平均的に見れば同じような推移をしていますが,左の方が変動は小さく,リスクが小さいです.
一方で,右図は変動が大きく,リスクが大きいです.

つまり,「リスクを減らして投資する」といっても失敗しないようにするというわけではなく,変動を小さくしながら投資するということです.
※厳密には,リスクは共分散の平方根です
ポートフォリオ最適化の例
投資市場に,以下のような商品が存在しているとします(これはあくまで例です).
金融商品 | 期待リターン[%/year] | リスク(分散)[%/year] |
株A | 5 | 1 |
株B | 8 | 3 |
株C | 10 | 5 |
株D | 30 | 10 |
債券A | 3 | 0.1 |
債券B | 1 | 0.01 |
債券C | 0.5 | 0.001 |
金 | 0.3 | 1 |
仮想通貨A | 50 | 50 |
仮想通貨B | 100 | 1000 |
現金 | 0 | 0 |
各金融商品を選んでポートフォリオを組んだとき,以下のように計算します.
(ポートフォリオの期待リターン)=(各金融商品の割合)×(各金融商品の期待リターン)
(ポートフォリオのリスク)=(各金融商品の割合)×(各金融商品のリスク)
※厳密にリスクを計算するには『共分散』という値が必要ですが,今回は省略しています(より正確には,今回は相関係数を単位行列としています)
年3%のリターンを狙う場合
(ポートフォリオの期待リターン)を3%にするように(各金融商品の割合)を選んでみます,期待リターンを3%にするような選び方はたくさんありますが,ここでは以下の3つのポートフォリオを構成しました.

100%を株Dで構成したポートフォリオはリスクが0.1%(左),50%を株A,50%を債券Aで構成したポートフォリオはリスクが0.51%(真ん中),50%を株A,他を債券Aや株C,金などで構成したポートフォリオはリスクが0.55%となりました.
つまり,この場合は100%を株Dで構成したポートフォリオが最もリスクを小さくしつつリターン3%を狙えるということになります.
こうなった理由としては,株Dのリスクに対する期待リターン(期待リターン÷リスク)が高いからです.これらの商品だけが存在する市場でリターンを3%に抑える条件の下では,株Dさえ買っておけばよいということになります.
年10%のリターンを狙う場合
同様に,(ポートフォリオの期待リターン)を10%にするようなポートフォリオ(各金融商品の割合)を3つ紹介します.

3つポートフォリオを比較すると,10%のリターンを狙うには真ん中のポートフォリオが最もリスクを抑えられることが分かりました.
一つの金融商品を買う(左)よりも複数買った方がリスクを抑えられる一方,金融商品を分散させすぎても良くない(右)という例ですね.
最適なポートフォリオを見つけるには
上の例では,実は手計算でリターンが3%や10%となるポートフォリオを探しました.
例では金融商品が11個しかない場合を考えましたが,現実では膨大な金融商品があり,最適なポートフォリオを手計算で組むのはかなり難しいです.
では,どのようにして最適なポートフォリオを組めばいいのか.
確立された理論を使う
ポートフォリオを最適化する問題は昔からずっと研究されてきた有名な最適化問題です.そのため,いくつかの有力な解法が確立されています.
例えば考慮する金融資産の数が少ないのであれば,ロバート・マートンによって与えらえた解析解(答え)があります.つまり,この解析解をそのまま使えば,リスクを最小限に抑えつつ期待リターンを達成するポートフォリオを構成することができます.この解はWikipediaの中にも書かれていますので,よいポートフォリオを厳密に構成したいひとはこの理論を利用すると良いと思います.
ツールを使う
自分で計算を行わなくても,条件さえ設定すれば勝手に計算してくれるツールもあります.
たとえば,PORTFOLIO VISUALIZERは所持している(もしくは所持する予定の)米国株銘柄を入力するだけで,以下のように最適化されたポートフォリオを表示してくれます.

上の図は,試しにPG(プロクター・アンド・ギャンブル),TSLA(テスラ),MSFT(マイクロソフト)でポートフォリオを構成するときの最適解を表示させてみたものです.ただし,シャープ・レシオ*を最大化するような設定にしています.
初心者的にはコレが一番簡単なので,ざっくりと参考にするには便利です.
ただし,リスクのモデルが不透明だったりすると,数学的には最適でも本当の意味で最適なのか分からなくなりますし,何より過去のデータから最適解を出すわけなので将来性や企業のニュースなどは考慮されていないため,あくまで「ざっくりと」参考にするのが良いと思います.
*シャープ・レシオとはリスク(標準偏差)1単位当たりの超過リターン(リスクゼロでも得られるリターンを上回った超過収益)のことです.簡単に言えば,リスクに対してリターンがどれだけ大きいかを表すので,シャープ・レシオが大きいほど良いです.
プログラミングする
最近では株価のデータを取得したり,それを分析したりすることがかなり簡単になってきましたので,少しでもプログラミングができる人は簡単にポートフォリオ最適化をすることができると思います.
例えば,PythonではPyPortfolioOptというライブラリを使用すれば数行で答えを出力してくれます.
実際にプログラミングしてポートフォリオ最適化を行う方法を解説した記事も,後日書く予定です.
より専門的に学びたい人のために
今回は,現代ポートフォリオ理論についてできるだけ分かりやすく,かつ少しだけ具体的に説明しましたが,もっと専門的に知りたいという人もいると思います.
なので余裕があれば,数式をバンバン使ってより専門的に(ただし,言葉は分かりやすく)説明する記事を書く予定です.書いたら,ここにリンクを貼ります.
また,本物の専門家から学びたいという人のために,以下の本を紹介しておきます(私は経済学者ではないので…).
この本は現代ポートフォリオ理論を実践で役に立てたい人にすごくおすすめな本なので,確かな理論をもとに投資で成功したい人には購入をおすすめします.
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