コロナウイルスによる影響対策としてアメリカが金融緩和政策を行ったこともあり,2020年から2021年にかけて米国株の価格は大きく上昇しました.
一方で,大きく上昇した反動で,大きく下落するのではないかという見方がされていたりします.
そこで我々が考えるのが,株価と逆の動きをする金融商品に投資するということです.
そこで今回は,私の勉強も兼ねて,株価と逆の動きをする(株のリスクヘッジになる)商品を検討していきたいと思います.
株のリスクヘッジになりそうな商品は何か?
株のリスクヘッジを考える際の重要なキーワードのひとつは,「市場金利」だと思います.特に,コロナ相場では金利の行方があらゆる商品の価値を大きく揺るがしています.
金利が重視される相場(金融相場)では,金利が上がると株価は下がります.金利が下がると,株価は上昇します.この理由は,金利が上がると「割引率」が上がり,将来に見込まれる株価の価値が下がるからです(投資では将来の価値は現在の価値を割り引いて考える).
また,一般的には市場金利が上がると債券価格も下がります(※).ということは,この時点で金融相場においては,債券は株のリスクヘッジになりそうにないということです.
ただし,当然ですが,相場によっては債券と株価が負の相関をもつ場面もあることに注意してください.
※市場金利と債券価格はシーソーの関係にあります.
例えば、債券の利率が2%のとき、市場金利が3%上がると債券の将来的な魅力は下がるため,債券価格が下がります.例えば,100円で2%の債券を買った後,市場金利が3%に上がると,100円で買った債券の魅力は市場よりも相対的に下がります.なぜなら,100円で市場に出回っている金利3%の商品を買った方が良かったからです.
現代ポートフォリオ理論おいて,株価と債券を混ぜて所持した方がいいという結論は,あくまで「そうすると分散を最小になるから」です.株価と逆相関するからではなく,どちらかというと分散(ボラティリティ)を小さいようなアセットマネジメントをするからという考えに近いですね.当たり前ですが,完全に逆相関する商品を同じ金額買ってしまっては,資産は増えませんからね.
金利が上がったときに価格があがりそうな金融商品としては,金融株(銀行株など)が候補として挙げられると思います.「金利が上がる=金融系の収益が増加する」ですからね.ということで,今回は銀行株と株価の動きを比較してみたいと思います.
また,株価のリスクヘッジになると言われているものとして金や不動産があります.これらが本当にリスクヘッジになるのか,見てみましょう.
今回比較するのは以下の通りとします.ただし,比較は代表的なETFで行います(選抜基準は私が購入を検討しそうなものとしています).
株:VTI(バンガード・トータル・ストック・マーケットETF )
債券:AGG(iシェアーズ コア米国総合債券ETF)
金融株:VFH(バンガード・ファイナンシャルズETF)
金:GLD(SPDR ゴールド・シェア)
不動産(RIET):IYR(iシェアーズ 米国不動産 ETF)
VTIはアメリカの企業全体に投資する株式ETFです.AGGは比較的優良とされている債券ETFです.VFHはJPモルガンやバークシャー,バンクオブアメリカなどを組入れ銘柄として持つ金融系の株式ETFです.GLDは金の投資信託会社の株式ということになりますが,金と同じようなものと考えてよいでしょう.価格も同じような推移をしています.IYRはブラックロックが運用するRIETです.
結果と考察
まずは,4つのチャートを見てみましょう.

今回の記事に登場するグラフを作るPythonコードは記事の最後に貼っておくので,自分でプログラムを回したいという人はご使用ください.
これを見ると,Stock_US(VTI,アメリカ全体の株)とStock_FI(金融株),RIETは同じような動きをしているように見えますね.特に金融株とREITはよく似ています.
これらと逆の動きをしているのは,金ですね.金なら株に対してリスクヘッジになりそうです.
また,債券(Bonds)は変動率が小さすぎて株に対してどちらに動いているのかよく分かりません.小さくても逆に動いているなら,たくさん債券を購入することでリスクヘッジにできます.
そこで,まずは上のグラフを変動率の推移に直します.つまり,2004年のときの価格を1としたとき,何倍に増えたかを表すグラフです.

金やREITって意外とパフォーマンスが良いんですね(少なくともここ20年くらいは).このグラフを,さらに0~1に正規化します(正規化のやり方はこちらを参照).

なるほど,2010年以降のここ10年くらいは債券も株やREITと同じような形を取っているようですね.
一方で,2008年付近のリーマンショックでは株やREITは下がりましたが,債券はあまり影響を受けずに増加していますし,よく見たら2020年のコロナショックでも一瞬下落したものの,すぐに回復して株価とは逆向きに動いていますね.
つまり,債券は暴落してもすぐ回復したり,そもそも大きく暴落しにくい特性がありそうなので,どんな金融商品と組み合わせてもリスクヘッジになるということが再確認できました.
ただし,債券は最初もしくは2つ目のグラフのとおり増加率は大きくないので,低リスク低リターンな投資をしたい人におすすめな商品ですね.
まとめ
金は株と逆の動きをすることが多いので,リスクヘッジになり得ます.これは,金が上下する理由は金利だけでないからであり,違う要因で変動する金融商品を持っておくことがリスクヘッジになるからですね..
債券は動きの方向は似ていますが,株価とは変動率が全く異なるので,株と合わせて持つことでリスクヘッジになり得ると思います(今回のグラフだけでは分かりにくいので現代ポートフォリオ理論を参考).
ただし,ここ数年は金利が重視された金融相場が長かったことに注意してください.当然ですが,債券と株価が負の相関をもつ場面もあります.
金融株やREITはアメリカ全体の株式に対してはあまりリスクヘッジにならなそうですね.
コード
import datetime
import pandas_datareader.data as web
start = datetime.date(2004,1,1)
end = datetime.date.today()
stock_us = web.DataReader('VTI', 'yahoo', start, end)['Adj Close'] ##株
gold = web.DataReader('GLD', 'yahoo', start, end)['Adj Close'] ##金
bonds = web.DataReader('AGG', 'yahoo', start, end)['Adj Close'] ##債券
stock_fs = web.DataReader('VFH', 'yahoo', start, end)['Adj Close'] ##金融株
reit = web.DataReader('IYR', 'yahoo', start, end)['Adj Close'] ##不動産
def mmn(data):
mmn = (data - data.min()) / (data.max() - data.min())
return mmn
import matplotlib.pyplot as plt
# ふつうのチャート
plt.plot(stock_us,label='Stock_US')
plt.plot(gold,label='Gold')
plt.plot(bonds,label='Bonds')
plt.plot(stock_fs,label='Stock_FI')
plt.plot(reit,label='REIT')
plt.xlabel('date')
plt.ylabel('price')
plt.legend()
plt.show()
# 変化率で比較
stock_us=(1+stock_us.pct_change()).cumprod()
gold=(1+gold.pct_change()).cumprod()
bonds=(1+bonds.pct_change()).cumprod()
stock_fs=(1+stock_fs.pct_change()).cumprod()
reit=(1+reit.pct_change()).cumprod()
plt.plot(stock_us,label='Stock_US')
plt.plot(gold,label='Gold')
plt.plot(bonds,label='Bonds')
plt.plot(stock_fs,label='Stock_FI')
plt.plot(reit,label='REIT')
plt.xlabel('date')
plt.ylabel('Rate of change')
plt.legend()
plt.show()
# 0~1に正規化
stock_us = mmn(stock_us)
gold = mmn(gold)
bonds = mmn(bonds)
stock_fs = mmn(stock_fs)
reit = mmn(reit)
plt.plot(stock_us,label='Stock_US')
plt.plot(gold,label='Gold')
plt.plot(bonds,label='Bonds')
plt.plot(stock_fs,label='Stock_FI')
plt.plot(reit,label='REIT')
plt.xlabel('date')
plt.ylabel('MMN')
plt.legend()
plt.show()
投資に関する免責事項
本記事は投資に関する考え方を提供するものであり,投資勧誘を目的とするものではありません.投資は自己責任でお願い致します.
コメント
債券全体は、金利の影響が大きいため、株と逆相関が小さいですが、EDVやTLTと言った長期債券ETFは長期で右肩上がりの上に、株と逆相関が大きいので良いですよ。
ありがとうございます。
確かに、長期と短期で区別する必要があるとは思っていました。EDVやTLTというのがあるんですね。調べてみたいと思います。